
今回のケース
35歳会社員Aさんの場合
家族構成: 専業主婦の妻と子供が2人
年収500万円、預貯金300万円、マイホームのローンあり
片働きで子供2人、ローンありというAさん、生活は決して楽ではありません。幸いまだ35歳、時間があります。積極的にリスクを取って大きなリターンを目指すことができます。すぐに運用できる資金もありますが、もう少し捻出するために家計を見直しました。銀行の口座残高から、毎月平均的に約3万円残っていることがわかりました。2人ともケータイを大手キャリアからMVNOの格安スマホに変えるなど毎月2万円ずつ節約して、計5万円ずつ運用に拠出できるようにしました。
住宅ローンは60歳まで1.9%の固定金利で組んでいます。預貯金があれば繰り上げ返済に回すのが一般的ですが、ローン残高の1%の住宅ローン減税も受けています。ローンはフラット35なのでAさんはローンに関して金利変動リスクを負っていません。
一方でこれから積極的な5%程度の運用利回りを目指すことも十分可能なので、達成できれば繰り上げ返済に回すより有利です。そこでAさんは、自分がリスクを積極的に取れる状況であることから、預貯金と毎月の残高5万円はローンの繰り上げ返済に回さず、資産運用に回すことにしました。
過去に高いリターンをあげた資産
各資産クラスの過去30年のリターンを比較すると(webサイトわたしのインデックス>その他データ>世界の主な投資資産リターン を参照またはhttp://myindex.jp/assets_i.phpの一番下で期間を30年で選択)、外国株式、外国不動産(投資商品としてはReitなど)、外国債券などの資産のリターン率が高いことがわかります。
そこでAさんはこれらの資産クラスを積極的に活用し、以下のようなポートフォリオを考えました。
- 先進国株30%
- エマージング株(新興国の株)20%
- エマージング債(新興国の債券)10%
- 先進国Reit 40%
この組み合わせの場合、過去20年間のデータでは
平均リターン7.9%、リスク18.9%、※シャープレシオ0.42となります。
※シャープレシオとは投資効率をはかる指標で、取ったリスクに対しどれだけのリターンが得られたかを表し、数値が高いほどより投資効率が高いことを示します。ただし、リスク値の大きく異なるポートフォリオ同士を比較する際には単純に比較できませんので注意が必要です。(現金のシャープレシオは高いですが、現金のみで運用するポートフォリオがいいかは別です。)
修正後のポートフォリオ
一方で過去に高いリターンを挙げた資産クラスが今後も同じように推移するかはわかりません。リターン率はずっと一定ではなく、データ蓄積に従い少しずつ変化していきます。また、いつを起点に変動を見るかで、成績の良い資産クラスも変わってきます。そこで、ほかの資産クラスも取り入れ、より分散することにしました。また、子供2人がこれから成長していき、大学生の年齢になるころに一番支出が多くなることが予想されます。学資保険などが頭に浮かびますが、Aさんは目的別に資金をはじめから分けるのではなく、将来使う資金もすべてまとめて運用に回し、その中から必要な時に学費なども拠出することにしました。
一方で手持ちの現金が少なくなることもちょっと不安だったので、流動性資金としては個人向け国債(1年後から自由に換金可)に10%振り分けることにしました。(ちなみに学資保険は、保険会社がリスクを取って預かったお金を株式や債券で運用し、運用益の一部のみを保険加入者に還元する商品と考えることができます。ですので、そもそもある程度のリスクを自分で取るなら資金は保険会社に預けずに自分の運用に回すほうが効率がよいと考えられます。)
新たに考えたポートフォリオは
- 日本株10%
- 先進国株10%
- エマージング株(新興国の株)10%
- 日本債券(個人向け国債)10%
- エマージング債20%
- 日本Reit 10%
- 先進国Reit 20%
- 金10%
この組み合わせの場合、過去20年間のデータでは平均リターン7.2%、リスク13.5%、※シャープレシオ0.53となります。この結果、平均リターンをやや下げる(7.9→7.2%)かわりにリスク値を大きく下げ(18.9→13.5%)、シャープレシオが0.42から0.53に上がりました。Aさんはこのポートフォリオで資産運用をしていくことに決めました。
想定される変動範囲
今後も相場の下落局面があると考えて、300万円は一気に運用に回すのではなく1年かけて投下していくことにしました。毎月の収支の差額5万円を加えて毎月30万円ずつ、1年後の累積投下資金は360万円ですので、
-22.7万円~+74.5万円の範囲に収まる可能性が約68%
-71.3万円~+123万円の範囲に収まる可能性が約95%
ということになります。
1年ごとのキャッシュフロー表を作り、将来子供たちの学費として現金を引き出すときにも、この範囲であれば全く問題ないことも別途確認できました。さらに、想定外が起こった時でも妻が働きに出ることはできるので、つまり「次の手」が用意でき、十分にリスクに耐えうるポートフォリオと考えられます。実際の運用では、評価が大きくマイナスになったとしても慌てないことが必要です。老後の資産形成がメインの運用ではマイナスになっても「損切り」をせず、毎月黙々と決められた金額を買い続けます。
〜その他のケース〜
35歳サラリーマン、最適な投資ポートフォリオをどう作る?
【40歳:共働き夫婦】おススメな投資のポートフォリオを公開
FPが提案する、45歳エリートサラリーマンのための投資ポートフォリオ実践例
【連載コラム】
第1回: FPが投資初心者にオススメする投信と、セールスにオススメされる投信の裏事情
第2回:「金融資産運用は分散と長期運用が王道」と言われるその理由とは
第3回:資産運用するなら把握しておきたい、リスクとリターンの関係とは
第4回:リスク許容度の見極め方、アセットアロケーションの決め方