Topページ > 投資・資産運用 > 【連載:第一回】誰も教えてくれなかったオフショアとその投資の真実
2017年4月14日

ニュースを見ていると時々聞かれる「オフショア」を舞台にした事件。大金持ちがお金を隠しているとまことしやかに言われる「オフショア」と言う場所。でも、投資信託を買うのに販売資料を見たら「オフショア」の最右翼、ケイマン諸島のファンドに投資していることに気づく。気づけば「オフショア」は身近にあるみたいだけど遠くよくわからない存在。私たちはどれだけ正しく知っているのでしょう。

第一回:オフショアって怪しいところ? – 今更パナマレポートとは言わないけれど

「オフショア」のイメージ

この言葉を聞いて、皆さんは何が最初に頭に思い浮かんだでしょうか。多分に、次のどれかが頭に思い浮かんだと思います。

「オフショアって、脱税天国とか投資詐欺とか悪いことをする人がたくさんいる場所、というネガティブなイメージ」
「オフショアって、お金持ちが資産を隠す場所」
「オフショアって、お金持ちしか投資出来ない、でもものすごく稼げる魔法の場所」
「オフショアは実体のない地上の虚構」

実際、世界中が出てきた名前に大騒ぎした「パナマ・ペーパー」では、スポーツ界のスター選手から財閥、政治家、果ては独裁者の個人資産などが、オフショア「に隠されていて、悪いことをしている」という印象を与えられました。その前の大きなスキャンダルといえば、AIJ 事件では新聞だけを読んでいると詐欺の手口がケイマン諸島のファンドを使ったものだった、という印象だけを植え付けられていますね(実際に首謀者が詐欺を働いたのは日本国内の金融当局の管理下にあった業者でした。日本当局もオフショアの関係者に問題がなかったのを確認しましたが、報道メディアは海外の関係者の汚名をまともに訂正せずにいますから、風評被害だけが残っています)。それに、この脱税天国、tax haven がカタカナ英語で「タックス・ヘイブン」から「タックス・ヘブン」にすり替わったから、とも言われています。

オフショアを生業とする筆者としては、このSoldie 編集部より打診を受け正確に発信して理解を得ることが大事と考え、執筆するに至りました。

絶対、人のいない浜辺=オフショアって思うでしょ?

誰にも聞けないし教えてくれない、だから、今だからこそ、正しいオフショアの姿を通じてファンドの世界を知ってみませんか?

今回は、その入り口である「オフショアとは何か」について書きたいと思います。

そもそもオフショアってどこ?

例えば、ITの世界では、「オフショア」開発といえばベトナムやインドといった「(日本から見た)海外の(低賃金な)開発拠点」をさしますよね。

ファンドや保険商品、証券化などのストラクチャー・ファイナンスといった金融全般において、ケイマン諸島、ブリティッシュ・バージン諸島(BVI) 、バーミューダ、ジャージー島、ガーンジー島、モーリシャス、セイシェルあたりをまず指し、マレーシア領ラブワン、香港、シンガポール、パナマ、バハマ、ベリーズ、ニュージーランドなどを人によっては含めたりします。

元々が大航海時代以降のフリーポートとしての人とモノとカネの流れの受け皿の役割を果たした都市(モーリシャスやセイシェル、香港、シンガポール)や、歴史上の諸般の事情で税務上の恩恵を受けた都市(ジャージー島、ガーンジー島、マン島のような英王室領やケイマン諸島、BVIのような英属領)が多いことがわかります。

ファンドの世界ですと、この他に有名なファンド設定地としてルクセンブルク、アイルランド、キプロス、マルタといったEU 加盟国を入れる時もあります。

それぞれ地図で見るなら

アジア(香港とシンガポール)

アフリカ(セイシェルとモーリシャス)

 

ヨーロッパ(ジャージー島、ガーンジー島、ルクセンブルク、アイルランド、マルタ島、キプロス)

アメリカ(バーミューダ、BVI、ケイマン諸島、バハマ、パナマ)

で、オフショアってなんなの?

オフショアの定義ですが、その言葉の本源的なところは、

オフショア(Offshore)は岸(shore)から離(off)れ海に流れる風、つまり「陸風」のこと。 反対語は、「海風」を意味するオンショア(Onshore)(cf. 海陸風)。 転じて陸から離れた沖合や、本拠の外の海外のことをさす。(Wikipedia)

となります。金融、特にファンドの世界で見るならば、概して次の条件を満たす自国以外の国や地域を指す、と考えてよいかと思います。

  1. ファンドを設立するための法制度が完備されていて
  2. かかる法制度に基づいて設立されたファンドに対して(特にその国の非居住者投資家に対する)一定の条件が満たされていると免税もしくは低税率での課税が適用される
  3.  設立されたファンドに対する企業向け商業サービスの提供があること

ここに、オフショアに付き纏うイメージの一つである「資産を秘密裏に隠せる」秘密主義が条件ではないことに気づきますね?オフショアに資金を「隠す」ことは、パナマ・ペーパーのような暴露話でなくとも、CRS※1や FATCA※2などの税務上の仕組みで今や出来なくなりつつあります。

※1 Common Reporting Standard の略。日本語では共通報告基準と呼ばれる、外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDにおいて、非居住者に係る金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準。

※2 Foreign Account Tax Compliance Act の略。米国で2014年に施行された「外国口座税務コンプライアンス法」の呼称で、米国人の外国金融機関を利用した租税回避行為を防止するため、米国外金融機関に顧客口座の報告義務を課す税制であり、日本の金融機関等の実務にも大きく関連する税制。

オフショアへの偏見とその真実

前述の3つの条件の1つ目の意味するところは、ファンドを作って運営する際にその当事国における法制度がしっかりしていないと、世界中の資金を集めて、そのファンドの目的の通りに投資が行い、投資が終わった時に投資家の権利に基づいて投資資金と余剰収益を返還する、という一連の約束事を法的に担保し、約束が果たされない場合に裁判等によって解決する仕組みがないことになり、誰も信用しないのでその国を利用しない、という結果に終わります。日本のファンド関連の法規制環境と比較しても、オフショア地域のそれはほとんど変わりがないか、さらに一歩先を行く柔軟性や保全性を高めたものが日々改善し、開発され、導入されています。そうすることで、世界中のファンド設立地の間での競争に勝ち抜いて、より多くの投資資金と投資事業、そしてそれに関連する雇用・ビジネスを誘致しているのです。

そこで、絶対にこんな質問が出てくるでしょう。

では、そんなにきっちりしているはずなのに、なぜオフショアを舞台にした詐欺案件が出てくるの?

オンショアだから安全で、オフショアだから危険、ではないのです。一言で言うならば「詐欺はどこでも起こります」。この辺りは拙著のブログにて解説記事で書いていますのでこちらもご参照ください。

オフショア=低コスト、だから低クオリティ?

ところで、ファンドに投資するとき、投資家にとって負担するコストとはなんでしょう。

前述の3番目のようなファンドの運営を支える金融サービス会社に払う費用、例えば法務費用、監査費用、ビークル管理費用(ファンドの事務管理、例えば、ファンドの資産評価 – 投資信託でいうところの純資産価格の計算 – や、その監査対応、ファンドの資産の持ち高管理、投資家の名義や持分の管理などの業務)、資産保有・管理費用、ファンドの運営・統治費用(取締役報酬や管理会社費用)、資産運用報酬(運用者への報酬)や現地当局への登録・年次届け出費用あたりが必然的にかかります。実際のところ、これらの機能はオンショアの銀行や法律事務所、会計事務所などが提供するサービスの質と何ら変わるものではありません。今やコストも実はオンショアで負担するものとほぼ変わらないレベルであり、物によってはオフショアでの取り扱いが多いことからオンショアより高いクオリティでの提供されていることも多々あります。

しかし、投資の世界においてもっとインパクトのある「コスト」は、税金です。証券取引に関連する取引税やキャピタルゲイン課税、利金・分配金への源泉徴収、などありますが、日本を含むオンショアでは利益に対して10-40% が一般的です。ですが、アメリカが、同国の高税率の所得税から逃げるために国を捨てることを防ぐために世界中に無理強いしている FATCA においては、もしアメリカの納税義務者でないことを自ら証明できない場合には米国関連資産の売却額(利益相当分ではなく、元本も含めて)の 30%を課税します。前述のサービス会社に払う費用が、仮にかかっても年率3%程度と言われていますから、とんでもないインパクトがあります。

ちなみに、前述の2の機能を提供するとされるオフショアでも、例えば、シンガポール、アイルランド、ルクセンブルクあたりは、金融サービス会社の収入増加による設立地の雇用促進を、結果として現地国での税収増加を意図して、現地の金融サービス会社のみを使った場合に限って取引に係る税金を減免する措置をとります。

他方で、居住環境の限られたケイマン諸島やBVI あたりは、ファンドの所在地と監査など一定の機能は設立国当局からのライセンスを受けたもののみが受任することで課税を減免し、その他の機能、例えばリソースを多く必要とする運用業務や管理業務は世界中のどこで行っても良いとすることでファンドの組成・運営に柔軟性を持たせてより多くのファンド設定(と当局への設定時と年次の登録費用の支払い)を呼び込む一方で、人口の増加を生まないことで現地の自然環境を保全しています。

タックス・ヘイブンはタックス・ヘブン?

この、いわゆるtax haven、正しく翻訳するなら「租税回避地」、です。しかし、ファンド設立地では課税しません、という「だけ」の話なのですが、よく誤解を生むのです。この話は、前述の秘密主義、FATCAやCRSとの関係に密接につながることから、別途説明したいと思います。

お金だって人と同じように効率的に移動する

ところで、私たちは飛行機や物流のハブ・アンド・スポークのネットワークから多くの人や物が効率よく運べることを見ることができます。

これと同じように、オンショアからオフショアに投資資金が集まり、オフショアに集まったより多くの資金を使って世界中に投資してリターンを上げていくことが効率的であり、今は少なくともその流れでオフショアに資金が流れ込んでいる事がある意味合理的な実務の結果となっています。このことについても別の記事でご紹介できればと考えています。

まとめ

という事で、もし、ここまでちゃんと飽きずに読みきってもらえたならば、オフショアがいうほど怪しくも怖くもないところ、と実務の世界では理解されて使われているところだという話の入り口に立って頂いたことになります。

次回以降でオフショアの真実に一歩ずつお連れします。心の準備はいいですか?怖くないですからね。楽しみにしていてくださいね。

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