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AI市場はあらゆる分野で加速的に拡大する
AI(人工知能、Artificial Intelligence)とは、人間と同様の知能をコンピュータ上などで実現しようとするテクノロジーだ。すでにチェスや将棋では、AIが人間を凌駕しつつあり、最後の砦と言われた囲碁においても昨年12月に名人相手に初勝利をあげた。06年にディープラーニング(深層学習)、2010年以降にビッグデータが登場したことがブレークスルーとなり、AIの成長が加速化しはじめた。

Tractica社、https://www.tractica.com/
日本経済新聞が決算サマリー記事をAIで自動生成し、17年1月から提供始めたのことが話題になった。米AP通信や米Yahoo!は、すでにAIの記事を配信している。決算発表は多くの会社が集中する傾向があるが、AIならば瞬時で数多くの銘柄のサマリーを記事に出来る。
機械学習システムのAIが主戦場
従来型のAIは「エキスパートシステム」と呼ばれ、あらかじめ設定されたプログラムの元で大量の事例データを分析し論理的な処理を行っていくもの。ブレークスルー後のAIは、「マシンラーニング(機械学習)システム」と呼ばれ、クラウドの大量のデータを分析処理し、「学習」「認識・理解」「予測・推論」「計画・最適化」といった人間が知能で行う部門をカバーして学んでいくものだ。
米IBMの「ワトソン」や、米アマゾンの「アレクサ」はエキスパートシステム。Yahoo(4689)などのポータルサイトやGunosy(6047)のようなスマートニュースサイトに自分好みの記事が出て来たり、アマゾンで自分好みの本が薦められたり、自分が検索した商品が広告に表示されるシステムもエキスパートシステムだ。ビッグデータがなくても構築できる。
一方、将棋や囲碁のAIはマシンラーニングシステムだ。今はマシンラーニングのAIが注目を浴びはじめている。工場のシステムのリスク管理、薬品開発、eコマースのマーケティングなど様々分野に進出しはじめている。グーグルやアマゾンやアップルといったITジャイアントが年間数千億円規模を投じて力を入れているホットな分野だ。
様々な分野に応用されるAI
金融業界ではAIによる自動発注システムや運用システムが普及し始めてた。ホテルやタクシー業界ではAIロボットによる受付業務が始まった。コールセンターではオペレーター業務をディープラーニングのAIでカバーできるようになってきた。
AIとロボットがネットワークすることで人材不足が著しい医療・介護の分野や建設現場などの危険な職場でもAIの活用が進むだろう。
様々な言語でのリアルタイムでの会話能力も上がってきており、20年の東京オリンピックまでにはAIが同時通訳をこなすようになるだろう。ディープラーニングを使うことで単なる同時通訳から、人間のガイドと同じような会話のキャッチボールが出来るようになるはずだ。
AIはコンピュータやロボットに搭載されるだけでなく、スマホ、ウォッチ、小型スピーカー、ヘッドフォンなどの次世代端末に搭載が進む。AIシステムは、他のAIや情報システムとネットワーク化することで、性能がさらに増大していく。
コネクテッドカーにも自動運転のAI技術がフルに取り入れられる。IoT、クラウド、高速通信網とシナジーを効かせながらいろいろな分野を切り開いて行くことだろう。
米国のAI関連銘柄
米国でもAI関連銘柄は期待が高く、様々な投資サイトで17年に買う銘柄として特集されている。日本のように小さい企業がリストアップされるのでなく、だいたいは下記のような大きなベンダー系銘柄やプロセッサの銘柄が本命銘柄としてあげられている。
- アマゾン・ドット・コム(AMZN)
- eコマース世界最大手 AIの家庭用音声認識アレクサで先行
- マイクロソフト(MSFT)
- OSウィンドウズ、統合ソフトOffice大手 「Microsoft Azure」で画像認識に強み
- アルファベット (GOOG)
- グーグル親会社 AI「TensorFlow」をオープンソースで提供 家庭用AI端末発売
- IBM(IBM)
- ITサービス大手 AIのワトソン、クラウドなどが伸張
- フェイスブック(FB)
- SNS大手 AIで様々な言語の大量画像を一瞬でタグ付しパーソナル最適化している
- アップル(AAPL)
- スマホ、パソコン、タブレットなど電子機器大手 SiriがAIの先鋒
- エヌビディア(NVDA)
- AIや自動運転用の画像処理用プロセッサ大手 バイドゥに基盤提供
- テスラ(TSLA)
- 電気自動車(EV)大手 コネクテッドカー用AI開発
- インフォシス(INFY)
- インド籍のソフトウェア大手 コールセンターにAI導入
- バイドゥ(BA)
- 中国検索、ポータルサイト大手 エヌビディアと車載用などAI提携
現状のAIは、産業向けに活用されていたり、ウェブのパーソナルな最適化などで広告効率を高めたりとあまり見えないところで活躍している。アップルの「SIRI」やグーグルの「Google Assistant」でスマホを通じてAIは確実に個人の生活に入り始めた。アマゾンのアレクサやグーグルの端末で家庭の家電製品や冷暖房をAIで処理できるようになるのも時間の問題だろう。次のステップで、AIが車やIoTなどの次世代端末に搭載されると、市場は飛躍的に大きくなるだろう。
日本の関連銘柄
米国のITジャイアントは、AIのインフラ、IoTの端末およびクラウドで新しい産業革命を起こそうとしている。日本の大手ベンダーも同じ土俵で戦っており、大手ベンダーをまずは紹介する。
ただ、株式市場で材料となるのは、SIベンダーなどのIT系の企業でプロダクトサイドが多く、実際の収益化はまだ先になりそうだ。グーグルが提供するオープンAPI(アプリケーションプログラムインターフェイス)の「TensorFlow」やその他のクラウドベースのAPIを使うと画像認識、音声認識、自動翻訳などは簡単にSIベンダーがエントリーできるようになる。ディープラーニングついてもオープンソースで実装できるようだ。今後、プロダクトサイドでAIを使い業績が大きく変化する会社もでてくるだろう。現状では成長分野だけにIT系やSIベンダーはほとんどが参入している。全部あげたら切りがないので、AIに前向きに取り組んでいる面白そうな会社の状況を何社か紹介しておこう。競争も激しい分野で赤字体質の企業も多いだけにバランスシートのチェックなどを怠らないようにしてほしい。
大手ベンダー
- ソフトバンクグループ(9984)
- 感情認識ヒューマノイドロボット「pepper」にAIを組み込むことで、pepperがソムリエや、リハビリ、介護関係のヘルプの仕事をこなせるようになれば活躍の場が拡がり、人手不足解消の武器になる可能性が高い。ソフトバンクはすでにIoT関連の半導体の設計の英ARM社を買収しており、サウジアラビア政府系ファンドなどとともに運用する10兆円の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」でもAIやIoT関連の世界のベンチャー企業に投資するとしている。AIおよびその周辺技術の総合力で関連銘柄としては外せない会社だ。
- NTTデータ(9613)
- 3月に「AI&IoTビジネス部」設置し、NTTグループ内の技術者を1700人集約した。AIやIoTの関連事業を20年までに年間約500億円まで拡大したい考えだ。ニュース原稿の自動生成「AI記者」や、重症患者の状態悪化の予知「スマートICU」、渋滞緩和のための「渋滞予測・信号制御シミュレーション」、「ロボットとセンサによる高齢者見守り支援」などの事例がある。
- NEC(6701)
- 世界No.1精度の顔認証技術を活用した入国システム、プラント故障予兆検知システム、ビルのエネルギー管理システムや小売業の発注システムなど、さまざまな分野でAI技術を活用した事業を展開している。自動運転ではデンソー(6902)と提携、共同でコネクテッドカーの技術を開発していく。そのデンソーが出資している会社に画像処理技術を得意とするモルフォ(3653)がある。 AIはコネクテッドカーでもキーテクノロジーになることは間違いない。
- 富士通(6702)
- 17年1月にビジネス・インテリジェンス・コンピテンシー・センター(BICC)を設立。自社AI「ZINRAI」とIoTを駆使したグローバル経営を強化してる。グローバルアナリティクスサービスをクラウドサービス上に構築し、海外拠点のオペレーショナルデータと社内外のビッグデータを統合・分析活用する。シンガポールで人・交通の混雑を緩和する実証実験や、スペインの病院で精神病患者を自殺や他の健康リスクから守るための実証実験などをすすめている。技術面ではディープラーニングの計算を高速で行う半導体開発をすすめている。
- YAHOOジャパン(4689)
- すでにネット広告にはAIを活用しており、実際に収益に貢献しはじている日本では数少ないAI関連会社。1日約9000万人ユーザーから約50億件ものページビューやリクエストが集まる。出稿される広告数は1000万種類を超える。これだけ膨大なユーザーと広告をリアルタイムで最適にマッチングしていくにはAIとマシンラーニングは必需だ。
AI分野が期待されるSIベンダー
- メタップス(6172)
- AI関連で期待が高い会社。スマートフォンアプリでのマーケティング支援などビッグデータを活用した事業を展開している。AIでデータ分析をすることでユーザー毎にパーソナライズした「レコメンド」でマーケティングを支援する。LINEなどのメッセージアプリで買い物ができる機能の提供も開始している。みずほグループとフィンテックを活用した新たな決済サービスの提供を目的とする業務提携や、大手ガス事業者ニチガスとAIを利用したスマートエネルギー革命を目指して資本提携をするなど積極的な取り組みが目立つ。
- アドバンスト・メディア(AMI)(3773)
- 音声認識技術をベースとしたソフト開発を得意とする。AI対話ソリューション「AmiAgent」が三菱東京UFJ銀行のAI音声対話アプリ「バーチャルアシスタント」に採用された。IBMのワトソンを三井住友銀行のコールセンターに、日本総合研究所、日本IBM、SCSK(9719)と共同で導入し、行内照会対応業務への活用を開始した。これにより、自社の音声認識「AmiVoice」とワトソンの初のリアルタイム連携が実現した。これらの実績を生かして次世代コールセンターの構築などを推進していく考えだ。多言語翻訳サービスも手掛けている。音声認識を活用し、日本語・英語・中国語・韓国語の4ヶ国語をリアルタイムで表示、発声する音声翻訳サービスで、20年東京オリンピックのインバウンドに向けて注目される。
- ロゼッタ(6182)
- AI型機械翻訳の研究・開発を手掛けている。おり収益的にも安定している。20年の東京オリンピックに向けておAIによる自動翻訳サービスの需要は確実に高まってくると予想されている。
- ブロードバンドタワー(3776)
- 都市型のデータセンター運用が主力。eコマースのシステム構築なども手掛けている。子会社でAIを使って解析し創薬 がん・免疫疾患薬の開発に取り組んでいる。豊橋技術科学大学、日本マイクロソフトと共同で多言語翻訳サービスも手掛ける。データセンターをベースにAIの有効活用が可能だろう。
- FRONTEO(2158)
- 医療系のAI関連。AIを活用した医療データ解析の専門子会社を持ち、がん個別化医療AIシステムの開発している。また、膨大な情報の中からいち早く適格な情報を医師や患者、家族へ届ける支援システムも開発している。将来は、介護、医療分野の人材不足解消に寄与するだろう。「転倒転落予測システム」といった、高齢者の転倒リスクを判定するシステムの開発もすすめている。
- エルテス(3967)
- SNSのビッグデータ分析で炎上チェック、炎上対策などをコンサルしている。日本マイクロソフトが提供するAI「Microsoft Azure」を活用し、SNSの炎上などを検知するサービスのマーケティングを開始した。 分野としては面白い。
- チェンジ(3962)
- 工場や建築現場の作業などでスマホを端末に、IT効率化する仕組みを得意としている。米グーグル社のクラウドサービス 「Google Cloud Platform 」が提供するディープラーニングによる画像認識技術 「Google Cloud Vision API 」と自社の分析を活用するサービスを始めた。 中小企業の工場の効率化などで威力を発揮しそうだ。
AIが選んだAI関連銘柄
AIが選んだAI関連銘柄というのも面白いので紹介しておこう。
金融情報のフィスコ(3807)は、フィスコのアナリストがリストアップした銘柄からAIを使って推奨銘柄をだす試みを始めた。システムは、テクノスジャパン(3666)グループのAIシステムを使る。AIは、アナリストのあげた銘柄をスコアリングすることで上がりそうな銘柄をピックアップする。17年1月16日にリリースしたAI関連は下記の5銘柄。市場平均を上回る素晴らしいパフォーマンスだったようだ。
【AIの選んだAI関連5銘柄】
ブレインパッド(3655)
サイオステクノロジー(3744)
アドバンスト・メディア(3773)
データセクション(3905)
イー・ガーディアン(6050)
銘柄選択も投資も記事を書くのもAIがこなせる時代になる。私の活躍する場はどんどん浸食されてきそうだ。
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