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ふるさと納税の勝ち組・負け組は返礼品で決まるのが現状
負け組の東京都世田谷区
ふるさと納税の影響で平成27年度は43億円の損失を計上しました。平成28年度はさらに損失額が膨れ上がる見込みです。この43億円という金額は保育園の定員が2,200人確保できる予算ですが、皮肉なことに待機児童は増加しています。
長崎県平戸市が勝ち組になったターニングポイントは返礼品
平成26年度にふるさと納税日本一になりましたが、その決め手は返礼品です。平戸牛などの市場に出回っていなかった特産品のブランド戦略が功を奏しました。平成24年度までは100万前後のふるさと納税の受入金額だったのが、平成26年度は14億6千万円、平成27年度は26億円と着実に増加しています。
世田谷区は平成29年度から返礼品を贈ることを検討中
区役所に取材した結果、世田谷区では工芸品や障がい者施設で生産した雑貨など返礼品にすることを検討していることが分かりました。ふるさと納税をする目的が返礼品目当ての人が多いと判断したことは、平戸市と比較すると容易に想像できます。
「ふるさと納税=返礼品」では納税者意識は育たない
そもそも何のために納税するのか
納税する理由は税金を負担することにより、公共のサービスを受けています。例えば、公道ひとつとっても、高速道路のように手数料を支払っていません。しかし、定期的に整備されます。その費用は税金で賄われているのは承知の通りです。ほかにも医療費や福祉サービスなども同様です。このように次世代までを見据えて暮らしを良くするために納税しています。
「ふるさと納税=返礼品」では納税者意識は育たない
返礼品には地方の特産物が多いです。先に登場した平戸牛を目当てにすれば、サービスを享受するのは食べた瞬間だけです。本来の納税する目的とはかけ離れているのではないでしょうか。
ふるさと納税が返礼品の買い物と化している
食料品をふるさと納税で賄っていることが本で出版されるように、返礼品で得することが賞賛されている傾向があります。その結果、国民が税金の使い道に関心を高めるというふるさと納税の趣旨から逸脱しています。そのことが平戸市のデータから読み取れます。ふるさと納税の創設から平成27年度までに寄付件数と受入金額を見ると市長一任が多いことは一目瞭然です。ふるさと納税で税金の使い道を決める権利を放棄していることに他なりません。
ふるさと納税が買い物と化している弊害
今度は平戸市の運用実績に注目しましょう。平成27年度は次の通りです。
オレンジの75%部分に注目してください。「ふるさと応援寄付金推進事業」とは返礼品の購入費用です。返礼品が目当てなら、平戸市も品物を購入する必要があります。スーパーが食料品を仕入れて売るという構図と同じです。平戸市民のためにインフラ整備に運用している割合は「ずっと住みたいまち創出プロジェクト」と「輝くプロジェクト」を合わせて24%です。これが本来あるべき税金の使い道なのでしょうか。
納税者意識が育たない原因
国民から見たふるさと納税制度とは何か
そもそもふるさと納税とは所得税・住民税の寄付金控除と住民税の税額控除の特例をミックスした制度です。
一番左にある適用下限額2,000円を除いで税額控除できます。つまり、実質2,000円で返礼品がもらえる仕組みです。
スウェーデンの国民が納税者意識の高い理由
結論から申します。税金を負担すると公共のサービスが受けられることを実感できるからです。ベビーカーを押す母親は市営バスが無料、医療費が20歳未満まで無料など国民が公共のサービスを日常生活の中で享受できる仕組みになっています。
日本が公共のサービスを受けている実感が乏しい理由
日本も福祉制度は充実していますが、スウェーデンと違って日常生活でサービスを享受できるようになっていません。同じベビーカーを押す母親でも、階段などの段差があって困るからエレベーターを設置するという考え方です。
両国の納税者意識の差は納税する国民と税金を使う政府との信頼関係の差にたどり着きます。そのためにスウェーデン人は消費税率25%でも満足して、日本は8%→10%の増税に不満を持つのも当然です。
返礼品競争に反旗を翻す自治体が登場
返礼品を批判する自治体
①埼玉県所沢市・・・平成29年3月末で廃止が決定
②東京都町田市・・・返礼品の範囲を限定する方針
③京都府長岡京市・・・平成28年9月に廃止
所沢市と町田市はふるさと納税で赤字のため、本来の趣旨に立ち返るためとメディアに表明しました。長岡京市はもともと税収のウェイトが低いための廃止です。
自治体から見たふるさと納税とは何か
住民税のうち80%は居住者から徴収できますが、20%部分は納税者に納税する自治体の選択できます。その20%の部分の収入の奪い合いによって、勝ち組・負け組が出てきます。
返礼品目当ての税収減は誰が負担するのか
反旗を翻した自治体の共通点は国から地方交付税を受けている点です。地方交付税とは財政収支の不足している自治体に次の金額を補てんする制度です。そのために収入金額を税収の75%で計算します。
補てんする金額=収支のマイナス分+インセンティブ(税収の25%)
「財政支出100億円-補てん前の税収80億円=20億円」収支は不足していますが、地方交付税が補てん後には120億円の税収になります。
地方交付税40億円=収支のマイナス20億円+インセンティブ(税収80億円×20%)
※世田谷区など東京23区はじめとする自治体は地方交付税を受け取っていません。
ふるさと納税の制度改正に待ったなし
ふるさと納税は国民が直接税金の使い道が決められる制度です。メディアで返礼品に対する批判が取り上げられれば、ふるさと納税の趣旨に対する国民の関心が高まる可能性を秘めています。返礼品に偏ったツケを地方交付税という形で国が負担するため、過剰な競争を自治体に自粛する通達では、法的拘束力がないために限界があります。所沢市や町田市のような自治体が次々出現すれば、制度の改正も時間の問題でしょう。そのときにふるさと納税の趣旨に合致して、国民の納税者意識が高まるような制度の改正に期待したいところです。