Topページ > ライフスタイル > ミヒャエル・エンデの『モモ』に隠された、経済についてのメッセージとは
公開日:2017年4月6日

作家ミヒャエル・エンデは、『モモ』や『はてしない物語』(映画「ネバー・エンディング・ストーリー」)などの作品で有名ですね。小説『モモ』は、日本では1976年に刊行されて以来、150万部以上(世界中では600万部以上)の大ロングセラーになりました。きっと、読んだ方も多いのではないだろうか。
そんな小説『モモ』の中には、実は経済についての深いメッセージが隠されているのです。

エンデは貨幣論に深い関心を抱いていた?

多くの方は子供の頃に『モモ』を読んだのだと思いますので、少し簡単にあらすじの紹介しましょう。

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大きな街の古びた円形劇場にモモは住み着いている。モモは、「人の話に耳をかたむけるだけで、話をした人々に自分自身を取り戻せる」という不思議な能力を持っていた。
ある日、時間銀行から来たという〈灰色の男たち〉が現れます。
そして、時間銀行に時間を預けると、利子がついて人生の何十倍という時間を持つことができるというのです。さっそく街の人々は、時間銀行に時間を預けますが、なぜかかえって余裕のない生活になり、やがては人生の意味までも失っていくのです。
実は彼らは人々から時間を奪っていくという「時間泥棒」だったのです。
それを知ってモモは、盗まれた時間を人々に取り戻すため、叡智の象徴であるカメ、カシオペイアとともに灰色の男たちに戦いを挑むというお話しです。
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この物語には、時間という寓話の裏側に、もう一つ、経済についての問題提起が隠されていたのです。
エンデはテレビインタビューで「重要なポイントは、たとえばパン屋でパンを買う購入代金としてのお金と、株式取引所で扱われる資本としてのお金は、2つの異なったお金であるという認識です」と語っています(『エンデの遺言』(NHK出版)より)。
実はエンデは経済、とくに貨幣論について深く研究をしていました。
エンデの関心を引いたのは、実業家で経済学者のシルビオ・ゲゼルの自由貨幣の理論を唱えた「スタンプ付貨幣」です。つまり、現在の貨幣システムは、お金を所有しているだけで利子が利子をよぶというものでが、ゲゼルの考えるお金は、時間とともにその価値は減っていくという考えなのです。

お金の価値は減っていくゲゼルの自由貨幣とは

ここでゲゼルの「スタンプ貨幣」について例を出して説明してみましょう。
たとえばある町で代用貨幣(スタンプ式)を発行しました。償還期間は1年、1年経つと同じ値段で現金と交換します。代用貨幣の裏には、52個の枠があり、この枠に毎週水曜日に5円シールを貼るようになっています。貼っていない、つまり未払いだと代用貨幣としての認めてくれません。ですので、この代用貨幣を受け取った人は、5円のシールを貼る前に使った方がいいということになります。
町は、代用貨幣を発行して、1年後に同じ値段で償還をするのですが、5円のシールを52枚貼っているので、5円×52個=260円の税収にもなるのです。
代用貨幣は、通常のお金よりも早く使わないと損をしますから、お金の回転が速くなりますね。

日銀のマイナス金利政策とゲゼルの自由貨幣

さて、日本に目を移すと、2017年の予算案の歳出総額は過去最大です。税収で足りない分は、国債の発行によって賄われています。国債にはもちろん利子が付きます。その利払いだけで予算の4分の1を占める額になっているほどです。
国債の発行というのは、市場にお金を供給しているということです。つまりお金を刷っているということですね。お金は刷って、お金の量を増やしているのです。通常、お金の量が増えると、お金の価値が下がってインフレになるのですが、あまりインフレにはなっていませんね。それでは刷ったお金はいったいどこへ行ったのでしょうか?そのお金は、日本銀行にとどまっていて、世の中に出回っていないのが実情です。そこで、日銀は世の中にお金を回す方法を考えました。そのひとつがマイナス金利政策です。「日銀にお金を置いたままだと、利子を取りますよ。だからお金を回してください。」というメッセージなのです。
そうしたところ、銀行などの金融機関は、仕方がなく日銀以外の預け先を模索している状態になりました。やはり安全で利息のいいところを探しています。

貨幣とは経済の血液と同じ

現在のお金は、持っているだけで利子が付くのですぐに使う必要はありません。当然お金の流通のスピードは遅くなります。持っているだけでは消費も生産にもつながらないので、経済に対して影響は少ないです。
しかし、持っているだけで価値の下がっていく通貨の流通のスピードも速いはずです。たとえば、2000万円分の価値が下がる通貨を発行すると、その2000万円は、人から人へと渡っていきお金が使われます。その経済効果は2000万円が1億円以上になるかも知れません。
お金とは、経済の中で血液のようなものです。循環をする必要があります。血液は循環していかないと必要な酸素を運べないのと同様に、お金も生産や消費もうまくまわらなくなります。

日本の地域通貨の「アトム通貨」とは

実際の問題、現在の貨幣システムの中で、「自由貨幣」というのは対極の考え方で、置き換えができるというものではありません。しかし、お金という意味を考える上で重要な意味を持っていると思います。現在の貨幣システムとゲゼルの自由貨幣の共存というのは、現実の社会で実践されています。
それは、地域貨幣です。欧米でもいくつか実践されていますし、日本でも成功している例があります。
日本の地域貨幣の成功例としては、「アトム通貨」があります。これは、早稲田・高田馬場の地域通貨ですが、現在、札幌・新座・八重山・春日井・女川まで広がっている通貨です。その地域の加盟店しか使えないのですが、地域発展にもつながるシステムでもあります。

エンデが『モモ』の中で本当に伝えたかったのは

最後に『モモ』の小説に戻るのですが、エンデ自身の言葉で「1冊の本は作者と読者の関係の中で完成される」といっています。読み手が変われば別の作品になるということです。つまり、本はいろんな解釈や読み方があるということなのでしょう。
しかし、ドイツの経済学者オンケンが、『モモ」の裏側に経済システムに対する問題提議が描かれているのではないかと気づき、エンデに手紙を送りました。すぐさまエンデがオンケンに返した返事の中に「この問題提議に気づいたのはあなたが最初です」あったそうです。灰色の男というのは、不正な貨幣制度の受益者で、お金を預けて利子を得るという話が裏側にあるのでしょう。
みなさんも本棚から「モモ」を引っ張り出して再読をしてみると子ども時代とはまた違ったことを発見するかもしれませんよ。

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